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MUSIC LIFE

独占!! リック・スプリングフィールド来日!
ロックン・ローラーとして、父親として・・・
そして、僕は僕自身であり続ける

 アルバム「TAO(道)」で、ロックン・ローラーたらんとする姿勢を明確に打ち出したリック・スプリングフィールド。そのリックも昨年は遂に独身生活にピリオドを打ち、また一児の父親になった。
 1年3ヶ月ぶりに日本の土を踏んだ彼に、今回はズバリ、現在の心境をつぶさに語ってもらうことにした。

「TAO(道)」は感性にしたがったまで
 誰もが10代の頃ポップ・スターに憧れることがある。リックだって同じこと。へイリー・ミルズのファンだったと聞いて,彼女のレコードを聴いているリックを想像したらおかしくなってしまった。リックも一緒に笑ってた。'60年代初めに映画に歌に大活躍した天才少女,でもルックスはどちらかというと庶民派のスターだった。そして,今はリック自身が少年少女の憧れとなっている。長身に長い足,端正な顔つきは見るからにスターらしい。でも,素顔のリックは飾り気がない。結婚して父親になっても,いつまでも少年ぽさが残っている。
 シンガー,ソングライター,TVスター,映画俳優,いろいろな顔があるけれど,会ってみるとビッグ・スタ一を気取っていることもなかった。ハリウッドのパーティに出かけたりするのもそんなに好きじやない。カメラの前よりはレコーディング・スタジオの中にいるのが好きだという。自分だってスターの前に人間なんだよ,と言いたいようだった。
 この日本公演の後,今年はツアーはやらないというリック,昔のこと,今のこと,これからのこと,結婚や私生活のこと,いろいろ話してくれた。

−−最新アルバム「TAO(道)」では,曲のみならず詩においても,今までとは姿勢が違うように感じるんだけど? また,「TAO」以前は,ギター中心だったけど今回は,キーボードやコンピューターなどを導入してるけど、どうしてそういう方向性をとったのかな?
リック・スプリングフィールド(以下RS):そうだな…ただ何か違うものにトライしてみたかったんだ。スタジオ内で,いろいろ実験してみるのも好きだしね。でもギターもふんだんに使ってるよ。ただ,今までのファズなのとは違って,もっとクリーンな入れ方をしている。このアルバムでは,クリーンな音を作りたかったんだ。とてもエンジョイしたよ。

−−なぜ,コンピューターを使おうと思ったの?
RS:可能性が多いからね。いろいろ違った音を作り出せるし…。

−−自分の音楽を変えたかったの?
RS:そうかもしれない。ただ,自分のその時の感性にしたがって,やりたいことをしている。あの時はコンピューターを使いたいと思っただけのことさ。でも,聴くとわかるけど,人間味のある音も出てるだろう。ある部分コンピューターで作ったにもかかわらずね。

−−コンピューターを使った仕事は楽しめたかい?
RS:いつも楽しいってわけじやないけど,アルバム制作中は,時々楽しめたよ。

−−「TAO」では,ラヴ・ソングばかりでなく,メッセージ色の強い曲も入づてるよね。“TAO・オヴ・ヘヴン”や“ウォーキング・オン・ジ・エッジ”などはそうだけど,何か特別な理由があるのかな?
RS:いや,あれは感性さ。僕は,自分の感じていることしか詩にしない。ある日突然“よし,次のアルバムでは,世の中の悪についてシリアスに歌おう”なんて決めたりしない。ただ,書いているうちにふっと出てくるのさ,皆いい歌ばかりだよ。

父親になった感想は“ショック!”

−−曲は,いつ書くことが多いんだい?
RS:朝が多いね。時には夜までかかることもある。部屋の中にずっと座ったままで、何時間もそのままでいることもあるけど,楽しいものさ。

−−最近のアメリカのロック・ミュージシャンの詞には問題提起してるものも多いように思うけど?
RS:そうだね,みんな考えてることだと思うけど,音楽って,結局世の中で起ってることを反映していくものだと思うんだ。

−−ロックの,詞は,若者を刺激してると思う?。
RS:だといいね。そうじゃないのもあるだろうけど。でも,基本的に音楽は楽しむためのものだから,楽しんで聴いてもらえれぱそれでいいのであって,音楽で何かを教育しようとする必要はない。大部分の詞はその人の感じたことを語っていて,音楽は言葉とは違うレベルでものを語る。だからといって,詞で説教する必要はないさ。いい詞は人を惹きつけるものだけどね。

−−詞は大切だと思う?
RS:もちろんさ。曲の一部だしね。

−−今までの音楽的なキャリアを振り返って,一番辛かったことって何かな?
RS:辛いことばかりさ,ずっとね。RCAと契約する以前も仕事ができなくて,レコードも出せず,辛いものがあったね。落ち込んでいたしさ。

−−では,逆に良かったことは?
RS:楽しかったってこと?やりたい事をやれてる時かな?学校を辞めてから仕事も出来なかったことを思えば,やりたいことをしてる時が一番だね。

−−ところで,去年結婚したけど,そのことで君の人生は変わった?
RS:そう変りはしなかっね。考えてみても,あまり結婚のために変ったことは見当らないな。息子の方が僕に与えた変化が大きいよ。

−−父親になった気持ちは?
RS:ショック!(笑)

−−なぜ?
RS:何もかも新しい経験だったからね。

−−エンジョイしてる?
RS:ああ,とても素晴らしい,ステキなことだ。

−−子供の名前は何て言うの?
RS:リアム(Liam)さ。

−−奥さんとは,どうやって知り合ったの?
RS:レコーディング・スタジオでのことさ。僕は仕事をしていて,彼女は事務をしていた。

−−一目惚れ?
RS:全然。(笑)その前に4年間も知っていたよ。

−−未だに,アメリカのティーン雑誌であなたを扱った記事をを見るけど,ティーン・アイドルでいることを楽しんでる?
RS:さあ,よくわからないね。そういうのは読まないから知らなかったし,理解できない。人がそういう形で僕を見ていて,楽しんでいるなら,それはそれでいい。僕が作った音楽に対し,人がどういう受けとめ方をしても,僕はかまわない。どんな雑誌で,どう扱われようとね。撲は僕自身という1人の人間であって,何かをコントロールしようとも思わないし,音楽をしているだけなのさ。

演奏曲目
1.セレブレイト・ユース
2.アフェア・オヴ・ア・ハート
3.アリソン
4.リトン・イン・ロック
5.ドゥ・ワァ・ディディー
6.ボップ・ティル・ユー・ドロップ
7.ラヴ・イズ・オールライト・トゥナイト
8.ヒューマン・タッチ
9.ステイト・オヴ・ザ・ハート
10.マイ・ファーザーズ・チェア
11.ジェシーズ・ガール
12.ダンス・ジス・ワールド・アウェイ
13.パワー・オヴ・ラヴ(TAO・オヴ・ラヴ)
14.ドント・トーク・トゥ・ストレンジャー
15.リビング・イン・OZ
16.ソウルズ
17.ラヴ・サムバディ
18.ウォーキング・オン・ジ・エッジ
19.スタンド・アップ
(l月29日於・日本武道館)

■いつだってリックは、ひたむきに誠実にロックする。そしてファンも誠実に彼に応える。
ロックン・ロールはこうでなくっちゃ。

MUSIC LIFE 1986年3月号より抜粋。
インタビューと文:大森庸雄
写真:Watal Asanuma (上)
    Greg De Guire (中)
    Midori Tsukakoshi (下)

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